前回の動画で私が「有機生活を始めました!」と報告したところ、「そんなの金持ちしかできない。」という声が少なからず寄せられました。それを目にしたとき、正直なところ、かつての自分を思い出しました。
私自身も以前は、「食べるものすべてを有機で揃えるなんて、現実的じゃない。お金持ちの道楽だろう」と思っていた時期があったのです。
しかし、これから書くことをじっくり読んでいただき、もう一度その固定観念について考え直していただきたいと思っています。なぜなら、「そんなの金持ちだけの趣味や道楽だ!」と一蹴するには、あまりに私たちの生活、そして未来の世代にかかわる深刻な問題が存在するからです。
ネオニコチノイド系農薬が及ぼす影響
日本の放送局TBSが2021年11月6日に「報道特集」で放送した「ネオニコ系農薬 人への影響は」という番組が、YouTubeにもアーカイブされています。わずか数分探せば視聴可能なので、ぜひ見てみてください。
2023年末現在、この動画は約368万回再生されています。そして2年ほど経過してもなお、動画の再生数は伸びているものの、ほとんどの方が今まで知らなかった内容じゃないでしょうか。日々口にしている米や野菜、そして生態系が、これほどまでに恐ろしい状況になっているということを示唆してくれました。
この番組では、ミツバチが世界的に姿を消している原因の一つと指摘されている「ネオニコチノイド系殺虫剤」について深く掘り下げていました。
ネオニコチノイド系農薬は、昆虫の神経伝達を阻害することで殺虫効果を発揮するとされ、哺乳類には影響が少ないと信じられてきました。しかし、実はその安全性は十分に検証されておらず、ニコチン類似の分子構造を持つことから、ヒト(特に子ども)の脳や神経発達に深刻な悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。
しかも、EUではすでに使用が禁止、もしくは厳しく制限されているにもかかわらず、アジア、アフリカ、中南米諸国などでは依然として幅広く使われ続けており、日本においては逆行するかのように規制が緩和されつつあるのが現状です。
ネオニコチノイド系農薬が環境に及ぼす影響
ネオニコチノイド系農薬の特徴は、植物への浸透性と残効性が非常に高いことです。
一度植物に取り込まれると、洗った程度では落ちにくく、さらに水にも溶けるため、周辺の用水路や河川、地下水へ流出します。その結果、環境中に広がり、そこに生息する生物群全体に影響を与えます。
このネオニコチノイド系農薬は、それまでポピュラーに使われてきた有機リン系農薬の4~5倍もの強い毒性を持つとされ、その環境への残留は数年、条件によっては10年以上続くこともあり得るといいます。
ネオニコチノイド系農薬が使われる背景ーー日本の稲作の現実
この毒性の強い農薬を最も大量に使っているのが、実は私たちの主食でもある稲作分野です。
米を食害するカメムシ対策として使用され、斑点米(米粒に黒い点が付く)を防ぐために散布されます。
実際、1000粒中にたった2粒の斑点米が混じれば2等米、たった3粒混じれば3等米と格下げされ、買取価格が大きく下がります。そのため、農家としては経済的損失を避けるため、農薬を用いて虫害を徹底的に防ごうとします。ですので、農家さんが農薬に頼ってしまうことは、とても理解できることです。
しかし、その結果として、ネオニコチノイド系農薬が過剰に使われ、使っている農家さん自身の身体のことや、その周りの環境、いわゆる生態系の変化へのリスク、それが将来自分自身にもたらす損失についてまで、深く考えているとは思えないのです。
生活に蔓延る農薬の危険性
トマトやきゅうりなどの果菜類でも、少しでも虫食いがあれば商品価値を損なうため、過剰な農薬使用が行われがちです。
また、ホームセンターで何気なく買った家庭菜園用の殺虫剤や、新築住宅の建材、家具の防虫処理、さらにはペット用のノミ取り剤など、私たちの日常には想像以上にネオニコチノイド系成分が紛れ込んでいます。つまり、自分で思いもしないところから農薬を口や肌、呼吸などを通じて取り込んでいる可能性があるのです。
こうして知らず知らずのうちに体内に取り込まれる農薬が、ヒトにどのようなリスクをもたらすのか、当然ながらしっかりとした調査・検証が求められます。農薬は国によって登録制度があり、様々な毒性試験を経て規制値が決められます。
日本の農薬使用安全基準は本当に安全なのか?
しかし、ここで衝撃的な事実があります。医薬品の場合、「治験」と呼ばれるヒトを対象とした臨床試験が厳格に行われ、効果や安全性が検証されます。ところが、農薬にはそうした「ヒトを対象とした直接的な安全性試験」は行われていないのです。
代わりに、マウスやラットなどの動物実験に基づいて規制が決まります。発がん性や発達神経毒性など、様々な観点から動物実験で有害影響が発生する用量を割り出し、その「有害影響が出なかった最小量(無毒性量)」をもとに、単純に100分の1にまで下げた値を「1日摂取許容量」としています。つまり、「動物実験でこれくらいなら影響なかったから、人間にはその100分の1なら大丈夫だろう」といった、大雑把な前提で私たちの健康被害予防が図られているのです。
ここで問題なのは、人間とマウスやラットの違いは多岐にわたることです。幼児、成人、高齢者、性別、人種、体質などの多様な要因があり、一律に「100分の1で安全」と言い切れる科学的根拠がどれだけ十分なのかは甚だ疑問です。特に発達神経毒性、つまり母体から胎児への影響や、幼児期の脳神経発達への潜在的な悪影響を考えれば、その疑問はさらに深まります。
TBSの報道特集では、実際に「無毒性量」とされたネオニコチノイドを与えられたラットの行動実験が取り上げられていました。通常のラットは箱の中を探索し、好奇心旺盛に動き回ります。一方、無毒性量のネオニコを与えられたラットは、箱の隅にじっとして動かず、不安症状を示しました。細い十字の棒の上でも、正常なラットはあちこち歩き回るのに対し、ネオニコ摂取ラットは不安から動くこともできず、キーキーと鳴き続ける異常行動を示したのです。これは「無毒性」とは到底呼べない挙動でした。
この放送が行われた後、農薬メーカーで構成する農薬工業会と大学などで研究を続ける専門家の間で激しい議論が巻き起こり、現在でも続いています。ネットで調べれば調べるほど、消費者である私たちは「不安なものには近づかない」という結論に至らざるを得ない状況です。
こういった情報に触れると、自分や子どもたちが日々口にする食べ物への不安を感じることでしょう。
近年、発達障害と診断される子どもの数が年々増加している現実も無視できません。発達神経への影響が懸念される化学物質が日常に溢れ、脳幹を介して影響が及ぶ可能性を専門家が指摘している状況です。母体を通して胎児にまで影響すると言われれば、将来への不安はさらに高まるはずです。
不安があるなら近づかない!オーガニック食への転換しよう!
そのような不安に対処するひとつのアプローチが「完全オーガニック食」への転換です。
ここで、「有機は金持ちの贅沢だ」という声が再び上がるかもしれません。しかし、ドイツを拠点として「オーガニックが当たり前な社会へ。」を目指して普及活動をするレムケなつこさん曰く、
世界各地の研究で、「1週間オーガニック食品だけを摂り続けると、尿から排出される農薬残留量が劇的に減る。」というエビデンスを報告しています。
例えば、発がん性があるとされる農薬のグリホサートの濃度が、6日以内で70%以上急減することがわかっているそうです。
また、有機野菜や有機食品のみを1ヶ月間摂取することで、尿中に含まれる農薬成分が、なんと97%減少したという報告もあるのです。
ネオニコチノイド系農薬は、土壌中で分解されても毒性のある代謝物を残し、数ヶ月から数年にわたり土壌中に滞留する頑固な存在です。そこから新たな作物に取り込まれ、再び食卓へと回帰する恐れがあります。しかし、有機農法で作られた作物では、そのような化学合成農薬の使用が厳しく制限されるため、食物連鎖を通じて体内に取り込まれるネオニコチノイド系農薬の量を格段に減らすことができるわけです。
さらに、ミツバチが消えれば、私たちが普段何気なく食べている果物や野菜が受粉されず、将来的には食卓から消えていく可能性があるとさえ言われています。ミツバチや生態系を守ることは、私たち人類の食料安全保障にも深く関わります。オーガニックは私たち個人の健康だけでなく、生態系を守り、未来の世代に豊かな食の選択肢を残すためにも重要なのです。
オーガニック生活を始める前に考えてみること
ここで、もう一度「オーガニックはお金持ちだけが楽しめる贅沢品なのか」という問いに立ち返ってみましょう。
多くの人は日常生活の中で、必要のないもものや、体にとって良くないもの、便利なものなどに、何も考えず消費を続けていると私は感じています。
たとえば、もう持っているのにさらに買ってしまう服やバッグ、靴、サブスクの契約、保険、家電、サプリ、何種類も重ね付けしないといけない美容液や美容クリーム、小さいことですと化学薬品バリバリの洗剤や柔軟剤、消臭剤、場所ごとに分けた洗剤、ペットボトルのお茶やスナック菓子、甘いものなどワンステップで口に入る食品、、、、並べてみれば、毎日何かしら必要のない出費をしているはずです。
それらを少しだけ見直して、その分をオーガニック食品に回してみたらどうなるでしょうか?
主食である米を有機に切り替え、毎日使う調味料や野菜、肉、魚の質を上げることで、身体に取り込まれる農薬負荷を大きく軽減できるかもしれません。結果として、健康を守り、将来の医療費や生活の質まで上がれば、長期的に見て割安になる可能性だってあるのです。
オーガニック生活を始めるためのワンステップ
もちろん、すべてを一夜にしてオーガニックにするのは簡単ではありません。日々の暮らしの中で、予算と相談しながら可能なところから切り替えていくのが現実的です。
おすすめはまず、主食であるお米から有機にしてみる。続いて毎日使う基本の調味料(醤油、味噌、油など)を有機のものや昔ながらの自然な製法のものに変えてみる。
その次に日常的によく食べる野菜や果物、豆類、そして余裕があれば肉や魚、乳製品も信頼のおける生産者から購入する。そうしたステップを踏んでいけば、いつの間にか「オーガニック生活」に近づくかもしれません。
私自身も、一気にすべてを有機に変えたわけではありません。少しずつ、可能な範囲で取り入れ、そのメリットを体感しながら範囲を広げていきました。その過程で気づいたのは、「食」に投資することが自分や家族の健康を守る、長期的な「保険」のような役割を果たすということです。
実際、近年は有機食品の入手性も増しており、ネット通販や宅配、地域の有機生産者との直取引、生協、自然食品店など、選択肢は拡大しています。安定した需要が生まれれば、オーガニック食品の価格も徐々に下がる可能性が高まります。つまり、「一部の富裕層のための選択肢」から、「より多くの人々が手の届く選択肢」へ変わり得るのです。
また、オーガニック食品を選ぶことは、農業生産者へのメッセージにもなります。「化学農薬を使わない作物を買う消費者がいる」という事実が増えれば、生産者はそれに応えようとするでしょう。市場原理が働けば、自然にオーガニック栽培の生産量も増え、価格競争力が高まる可能性が生まれます。私たち一人一人が選択を変えることで、経済や社会の構造にも影響を与えられるのです。
「オーガニック食はお金持ちの道楽?嗜好?」という問いに対して、私は断固として「そうではない」と言いたい。これは単なる贅沢や嗜好品ではなく、私たちの健康、子供たちの未来、環境保全、生態系の多様性、ひいては次世代に豊かな食卓を残すための重要な選択肢です。
カラダは口にするものでできている
私たちが口にするものが、私たち自身を作り出します。農薬まみれの食材を当たり前のように食べ続けることで、どれほどのリスクを抱え込んでいるのか、そしてそれが将来どんな形で現れるのかは想像に難くありません。アレルギー、発達障害、原因不明の体調不良、環境の荒廃、そして食料危機——これらはすべて、現在の「当たり前」を見直すことによって、ある程度防げる可能性があるのです。
もちろん、有機生活をする人はこの日本ではまだまだ少数派です。ですので情報収集が非常に重要になります。有機JAS認証マークが付いているなど、公的な認証制度も活用しながら、本当に信頼できる生産者やブランドを見極める目を養う必要があります。こうした「食のリテラシー」を高めることで、消費者としての私たちはより主体的な選択が可能になります。
オーガニック生活が金持ちの道楽とは言えない時代に来ている
「そんなの金持ちしかできない」——その言葉を口にする前に、まずは現状を直視してみましょう。ネオニコチノイド系農薬が与えるかもしれない人体や環境への深刻な影響、そしてそれらが長期的にもたらす不利益を考えれば、今のうちから食のあり方を考え直すことは決して無駄ではありません。
私たち一人一人が食の選択を変えていけば、やがて社会全体が健康的な方向へと転換することができるでしょう。それは、決して夢物語ではありません。ほんの小さな選択から始めることで、未来が少しずつ変わっていく。そう信じています。
有機生活への転換は、単なる嗜好ではなく、私たち自身と子孫のための投資なのです。みんなで健康になって、社会も明るくしていきましょう。あなたの一歩が、新たな未来への架け橋になるかもしれません。
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