日々の食卓に欠かせない「料理酒」。しかし、その中でも“生きた酵素”を含み、独特のコクと香りをプラスしてくれる稀少な存在があるのをご存知でしょうか?

それが鹿児島の東酒造さんが手がける「黒酒(灰持酒:あくもちざけ)」です。火入れを一切行わないため、瓶の中で酵素が生き続け、さまざまな料理を劇的に美味しくしてくれるんです。
実は去年知り合いを通じて黒酒の存在を知り、サンプルをもらって使ってみたところ、すっかりその魅力に取り憑かれました。
そしてこれを皆さんに紹介したいがために、酒販免許を取ったくらいです。笑
今回は、実際に東酒造さんの醸造室を見学した内容を交えながら、黒酒の背景や製造工程、そして毎日の料理にどのように活用できるのかを深掘りしてご紹介します。最後には黒酒を活用した具体的なレシピもご用意。ぜひ最後までご覧ください。
黒酒(灰持酒)とは?
黒酒(灰持酒)は、鹿児島を中心とする南九州エリアで古くから親しまれてきた伝統的なお酒の一種です。
一般的な料理酒と異なり、火入れをせずに瓶詰めしているのが最大の特徴。
これによって、酵素が生きたまま瓶の中に存在し、料理に使った際に独特の旨みを引き出してくれます。
- 名称の由来
「灰持酒(あくもちざけ)」という呼び名は、かつて焼酎づくりの過程で焼酎粕や灰を用した製法があったと言われることに由来しますが、現在の東酒造さんが手がける黒酒は現代の衛生管理や品質管理のもとで磨き上げられた製法を用い、昔ながらの風味と現代の技術を融合させています。 - 鹿児島特有の文化
鹿児島では、家庭で酒を使った調理が盛んに行われてきました。豚肉や魚を旨みたっぷりに仕上げるために、米麹や黒麹などを組み合わせた独自の醸造技術が発達しており、黒酒はその伝統を象徴する一本といえるでしょう。
東酒造のこだわり:醸造工程と酵母の力
今回訪問した鹿児島の東酒造さんでは、黒酒をはじめ様々な種類のお酒を醸造しています。工場見学の際には、まず酵母を培養する部屋から案内していただきました。
酵母の培養
- 水・酵母・糖を入れて培養する部屋は温度管理が非常に重要。ここで酵母が元気に活動する環境を整え、最適な状態になったところで仕込みに活用します。
- 一年寝かせると、黒酒は琥珀色に近い深い色合いへと変化し、フルーティーな香りが立ち上がります。

左が蔵の素「匠」、右が黒酒。
どちらも通常の純米酒より多くのアミノ酸を含有しています。
ちなみに、蔵の素「匠」は、とても上品な料理酒です。実家で母がおでんを作るときにこの料理酒を使ったところ、超グルメな父が、「あれ?いつもと味が違うなぁ。なんか今日はいつもよりもさらに美味しい!!」と言わしめた料理酒です。
そして黒酒は、煮物で使うと砂糖要らず。これなしでは煮物ができないほど我が家のキッチン偏愛アイテムになりました。笑
魯山人に捧ぐ 純米料理酒 蔵の素 匠 大和川酒造店 720ml
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原料と精米
- 東酒造では「普通に食べられる美味しいお米」を使用。精米度合いは90%程度と、それほど削りすぎないのが特徴です。
- お米を削りすぎないことで、お米本来の旨みや栄養を残し、コクの深い味わいを引き出します。
下処理と仕込み
- 醸造前には原料の下処理を行う場所で、お米の状態や水分量を徹底的に管理。
- 麹を作るための機械は河内源一郎商店のものを使用するなど、設備にもこだわりが感じられます。
- お米は一旦冷蔵保存し、使用前に常温に戻すなどの丁寧な温度調整を欠かしません。
ベルトコンベアー式の蒸し工程
- 一気に大量の米を蒸せるベルトコンベアー式の機械を使い、ムラなく均一に蒸し上げます。
- 蒸したてのお米の甘い香りが広がり、ここから先、酵母が活発に働いてアルコール発酵を進めることで、複雑な風味が生まれていきます。
このように、東酒造さんでは最新の機械や厳密な温度・品質管理を組み合わせることで、昔ながらの技術を現代に最適化。出来上がった黒酒は、風味豊かで深みがあり、酵素が生きたままの“パワー”を秘めた一本になるのです。
火入れしないからこそ味わえる「生きた酵素」の魅力
一般的な料理酒は、アルコール度数の調整や賞味期限の安定を図るために火入れという過熱処理が行われます。しかし、黒酒はこの工程をあえて省略して瓶詰めをするため、菌や酵母が生き続けます。
それによって、みりんよりも多いアミノ酸量を含むため、これ一本で料理酒と味醂の両方のいいとこ取り!

生きた酵素がもたらすメリット
- タンパク質分解作用
肉や魚のタンパク質を分解し、旨み成分に変化させやすい。結果として、加熱調理でもふっくらと柔らかく、また風味が濃厚になる。 - 発酵に近い状態が継続
酵母や酵素が調理段階でも多少作用し続けるため、長時間煮込む料理で特に味わいが深まる。 - 健康面でのプラス要素
酵母の代謝物質や微量栄養素が残っており、体に良いと言われる成分も多く含まれている。
こうした特徴は、市販の料理酒ではなかなか得られない大きなポイントです。
黒酒がもたらす料理への効果
1. 肉や魚の臭みを抑え、旨みを引き出す
肉や魚を調理する際、臭みが出てしまうのはタンパク質や脂質が酸化することが一因と言われています。黒酒に含まれる酵素は、このタンパク質や脂質を分解して旨みに変えてくれるため、臭みを抑えるだけでなく風味が格段にアップします。
- 魚の場合
例えば、鮭や鰆などの切り身に黒酒を軽く振りかけて1時間ほど置いてから焼いてみると、まるで麹漬けのような奥深い旨みが生まれます。 - 肉の場合
鶏肉や豚肉、牛肉いずれにも使えます。下味をつける前に黒酒をひと振りすると、肉質が柔らかく臭みも軽減されるので、さらにおいしさが引き立ちます。
2. 調味料を最小限にしても美味しく仕上がる
料理をするときには、味醂・砂糖・醤油などの基本調味料を組み合わせて「甘辛い味わい」を作るのが定番です。ところが、黒酒を使う場合は比較的少量の調味料でも満足できる味に仕上がることが多いです。
- 理由
- 酵素の働きで素材そのものの旨みが引き出される
- ブラックボックスのように発酵によるコクがプラスされる
- お米本来の甘みが残っている
3. まるで麹漬け!?奥深い風味と柔らかさ
黒酒に漬け込んだ魚や肉は、あたかも麹で仕込んだかのような甘みやコクが生まれます。特に焼き魚や煮物を作る際は、味わいがワンランク上がったことを実感しやすいでしょう。
実例レシピ:黒酒で作る絶品肉じゃが
ここでは、黒酒の力を存分に体感できる定番料理「肉じゃが」のレシピをご紹介します。
煮物全般に応用できますが、まずは一度“黒酒入り肉じゃが”でその効果を体感してみてください。
1. 材料と下ごしらえ
- 材料(4人分)
- 牛肉または豚肉薄切り:300g
- じゃがいも:3〜4個
- 玉ねぎ:1〜2個
- にんじん:1本
- 黒酒:適量(目安としてお玉1杯(30ml))
- 醤油:黒酒と同量(目安としてお玉1杯(30ml))
- 水またはだし汁:少量(煮込みに必要な程度)
- 下ごしらえ
- じゃがいもは皮をむいて大きめにカット。玉ねぎはくし形切り、にんじんは乱切りにします。
- 肉は食べやすい大きさにカット。可能であれば事前に黒酒を小さじ1〜2程度振りかけて10〜15分ほど置いておくと、より柔らかく仕上がります。
2. 調理のポイントと手順
- 鍋に材料を全て入れる
鍋やフライパンに玉ねぎやにんじん、じゃがいもを入れます。その上に肉を開いて並べます
(先に具材を炒めてから煮込む方法もありますが、我が家は極力植物油を使って炒め物をすることを控えているため、炒めないで作るのが最近の定番です。) - 黒酒と醤油を加える
具材の上から黒酒と醤油を入れます。比率は「黒酒:醤油 = 1:1」が基本ですが、味の濃さはお好みで調節してください。 - 煮込む
水またはだし汁を加え、フタをして極弱火で約60分煮込みます。沸騰してきたらアクを取りつつ、なるべくかき混ぜずに煮込むのがコツ。 - 味をしっかり染み込ませる
煮込み終わったら火を止め、30分〜1時間ほどそのまま放置します。冷めていく過程でさらに味が染み込み、濃厚な仕上がりに。
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3. 仕上げとアレンジ
- 最後に具材をひっくり返すように軽く混ぜ合わせ、再度温め直して器に盛り付けます。
- お好みでネギや青菜を散らすと色味が良くなり、より食欲をそそる一品に。
- 砂糖や味醂を一切使っていなくても、驚くほど甘みとコクが感じられます。物足りない場合は軽く味醂を足してみてもOKです。
その他おすすめ活用法とレシピアイデア
1. シンプルな魚の塩焼き
- 下準備
- 魚の切り身に黒酒を振りかけ、キッチンペーパーで包んで冷蔵庫で30分〜1時間ほど置く。
- 余分な水分をふき取り、塩を軽く振る。
- 調理
いつも通りにグリルやフライパンで焼くだけ。これだけで、麹漬けのように深い旨みとふっくら食感が生まれます。
2. 煮物・スープ類への応用
根菜類を中心とした煮物や、豚汁・鶏汁などのスープ系にも黒酒は大活躍。野菜や肉、魚介から出る旨みをさらに際立たせる効果があります。
- 例:豚汁の場合
- 具材を下茹でした後、黒酒を加えてさっと煮込む。
- 味噌を溶き入れ、弱火でゆっくりと味を馴染ませる。
- 黒酒のまろやかな風味が、豚肉と野菜の甘みをぐっと引き上げてくれます。
3. 黒酒ベースの漬け床づくり
味噌や醤油、塩麹、酒粕などと黒酒を合わせて漬け床を作ると、魚や肉を漬け込むだけで奥行きのある味わいに。
- 基本の配合例
- 黒酒:味噌(または醤油、塩麹、酒粕など) = 1:1
- 生姜や七味唐辛子、山椒などを少量加えると、さらに風味豊かになります。
鹿児島の伝統と黒酒:地域性から見る価値
鹿児島は焼酎の産地としても有名ですが、同時に「灰持酒」など独自の酒文化が根付いている地域でもあります。
海や山の幸に恵まれ、昔から魚や豚肉などの食材を豊富に使った郷土料理が発達してきました。
- 黒酒が育む地域の食文化
- 発酵文化の継承
麹を使った甘酒や味噌、醤油などと同様、黒酒もまた発酵のチカラを活用した伝統食品の一つ。 - 健康志向との相性
生きた酵素を活かした調味料や発酵食品が注目される現代、黒酒はその健康志向にもマッチするアイテムです。 - 地産地消の実践
鹿児島の豊かな水や気候風土を活かした酒造りは、地域に根付く産業を支えています。近年は高級スーパーへの販路拡大やネット販売の増加で、全国的にも少しずつ認知度が高まっています。
- 発酵文化の継承
まとめ:黒酒で実感する料理の新次元
鹿児島の東酒造さんが造る「黒酒(灰持酒)」は、火入れを行わずに酵素が生きたまま詰め込まれた特別な料理酒です。
肉や魚の臭みを抑えつつ、素材本来の旨みを引き出す力は、一度使えば手放せなくなるはず。
とくに煮物や焼き物、漬けダレとしての活用は、まるで麹漬けのような奥行きを料理に与えてくれます。
今回ご紹介した肉じゃがをはじめ、魚の塩焼きや煮物、豚汁など幅広い料理に活躍できる黒酒。
都内では限られた店舗でしか取り扱いがないようですが、最近では高級スーパーで見かけることも増えているようです。
重たい瓶を自宅まで持ち帰るのが大変という方は、ネット通販を利用するのが便利でしょう。
あなたの毎日の料理を、もう一段上の美味しさと健康的な味わいへ。
ぜひ“生きた酵素”を含む黒酒をキッチンに取り入れてみてください。
きっと一度使ったら、その違いに驚くはずです。
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